この記事の結論
- 法律上、改葬(遺骨の引っ越し)を決めて申請するのは、墓地の使用者(多くは祭祀承継者)です。親族全員の同意は、許可の条件ではありません。
- それでも、後から「聞いていない」と言われるのが一番こじれる原因です。決める前に相談する順番を守り、説明文と同意書を残しておくと安心です。
- 意見が割れたら、分骨や改葬先の選び方で歩み寄る道があります。それでもまとまらないときは、家庭裁判所の調停や弁護士への相談を考えます。
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墓じまいを「決める人」は誰か
改葬許可で求められるのは「墓地使用者」の意思
墓じまいでは、遺骨を別の場所へ移すために改葬許可が要ります(墓地、埋葬等に関する法律5条)。施行規則2条は、申請書に添える書類を定めています。申請者が墓地使用者でないときに求められるのは墓地使用者の承諾書で、兄弟姉妹やおじ・おばなど、ほかの親族の同意書は条件になっていません。
たとえば横浜市も、墓地使用者と申請者が違う場合に、使用者の委任状または承諾書が必要と案内しています。親族全員の署名を求める記載はありません。
お墓は相続財産とは別に「祭祀承継者」が受け継ぐ
民法897条は、系譜・祭具・墳墓(お墓)の所有権を、相続とは別のルールで受け継ぐと定めています。順番は次のとおりです。
- 亡くなった人(被相続人)が指定した人
- 指定がなければ、慣習にしたがって祖先の祭祀を主宰する人
- 慣習もはっきりしないときは、家庭裁判所が決める
祭祀財産は遺産分割の対象にならない、と家庭裁判所の資料でも説明されています(岡山家庭裁判所「遺産分割手続Q&A」)。お墓は兄弟で分けるものではなく、承継した1人が管理する財産です。
それでも「同意」をとったほうがよい理由
法律上は使用者が決められるとしても、実際には次のような事情があります。
- お墓には、おじ・おば側の親も眠っていることがある
- お寺との関係や、地域の行事に親族が関わっている
- 費用の分担や、今後のお参りの場所が親族全員に関わる
決定権があることと、親族が納得していることは別の問題です。同意をとっておくと、後から蒸し返されにくくなります。また、そもそも誰が祭祀承継者なのか、親族の間で認識が食い違っている場合もあります。そのときは同意書を作る前に、名義と承継者をはっきりさせることが先です。
反対されやすい理由と、よくある言い分
反対の理由は、たいてい次のどれかです。
| よくある言い分 | 背景にある気持ち |
|---|---|
| 「ご先祖に申し訳ない」 | 供養をやめると受け取っている |
| 「お参りする場所がなくなる」 | 自分の居場所や思い出が消える不安 |
| 「勝手に決めるな」 | 相談されなかったことへの不満 |
| 「お金はどうするの」 | 費用を求められる心配 |
「墓じまい=供養をやめること」ではありません。合葬墓や樹木葬、納骨堂などに移したあとも、お参りはできます。ここを最初に伝えるだけで、空気が変わることもあります。
説明の順番:トラブルを防ぐ5つのステップ
ステップ1 名義と現状を確認する
最初に確認しておきたいのは次の3点です。
- お墓の使用許可証や契約書の名義は誰か
- 何人分の遺骨が入っているか
- 管理料は誰が払っているか
名義人が亡くなっている場合、公営墓地では先に承継(名義変更)の手続きが要ることが多いです。
ステップ2 いちばん近い家族から相談する
配偶者や兄弟姉妹など、近い家族から順に話します。「もう決めた」ではなく、「こう考えているが、どう思うか」という相談の形で始めるのがポイントです。
ステップ3 遺骨が眠っている人の近親者に話す
お墓に入っている人の子や兄弟がいれば、その人には個別に、早めに伝えます。遠方の親族は、電話のあとで書面を送ると誤解が少なくなります。
ステップ4 改葬先と費用の案を示す
反対を和らげるのは、具体的な案です。
- どこに移すか(場所・お参りの方法)
- おおよその費用と、誰が負担するか
- いつ頃の予定か
改葬先の候補を2〜3か所並べて意見を聞くと、「一緒に決めた」という感覚を持ってもらいやすくなります。
ステップ5 お寺・霊園に伝える
親族の理解が得られてから、墓地の管理者に伝えます。お寺の墓地では、閉眼供養の進め方などが宗派や寺院によって違います。早めにていねいに相談しましょう。
説明文・同意書(承諾書)の作り方
説明文に入れること
親族に送る説明文は、A4で1〜2枚にまとめると読みやすくなります。
- 墓じまいを考えた理由(承継者がいない、遠方で管理が難しい など)
- いまのお墓の所在地と、眠っている人
- 改葬先の候補と、お参りの方法
- 費用の見込みと負担のしかた(「負担はお願いしない」なら明記)
- 予定の時期と、意見を聞かせてほしい期限
説明文の文例
次の文例は、ご家庭の事情に合わせて書き換えてお使いください。
○○家のお墓についてのご相談
いつもお世話になっております。父が眠る○○霊園のお墓について、ご相談があり、お便りしました。
私たち夫婦には子がなく、お墓を継ぐ者がいません。また、霊園まで片道2時間かかり、年に一度のお参りも難しくなってきました。このまま管理が途絶えると、将来は無縁墓として整理されるおそれがあります。
そこで、私たちが元気なうちに、お墓に眠る祖父母と父の遺骨を、自宅近くの○○(永代供養の合葬墓)に移したいと考えています。移した後も、施設でお参りできます。
費用は私どもで負担し、皆さまにご負担をお願いすることはありません。時期は来年春ごろを考えています。
ご意見やご希望(遺骨の一部を手元に置きたい、など)があれば、○月○日までにお聞かせください。お電話でもかまいません。
ポイントは次の4つです。
- 理由を「自分の都合」だけでなく、「将来、無縁墓にしないため」と伝える
- お参りできる場所が残ることを書く
- 費用の負担をはっきり書く
- 意見を聞く期限を設ける
相手が返事をしやすいように、「一部を手元に置きたい」などの選択肢を書いておくのも有効です。
同意書に入れること
同意書は、後から「同意していない」と言われないための記録です。決まった書式はありません。次の項目を入れておくと十分です。
| 項目 | 書き方の例 |
|---|---|
| 対象のお墓 | 墓地名・区画番号・墓地使用者の氏名 |
| 同意する内容 | 上記墓所の遺骨を○○へ改葬し、墓所を返還(撤去)すること |
| 対象の遺骨 | 故人の氏名(わかる範囲で) |
| 費用 | 「同意者に費用負担を求めない」など |
| 日付・署名 | 同意者の住所・氏名・続柄、署名(押印) |
なお、改葬許可申請に必要な墓地使用者の承諾書は、これとは別物です。申請者が墓地使用者でない場合に役所へ出す書類で、自治体が書式を用意していることがあります。
気をつけたいこと
- 署名を急がせない。説明から署名まで、最低でも数日あけます。
- 反対している人に無理に書いてもらわない。署名がなくても手続き自体はできますが、関係の修復が先です。
- 原本は申請者が保管し、同意者には写しを渡します。
折衷案:分骨という選択肢
「全部移すのは寂しい」という親族には、分骨が歩み寄りの手段になります。分骨とは、遺骨の一部を分けて、別のお墓に納めたり、手元で供養したりすることです。
- 例:大半は合葬墓へ移し、一部を親族の家のお墓や手元供養に分ける
- 例:お墓をしまう前に、希望する親族に一部を分ける
手続きのポイントは次のとおりです。
- 分骨は改葬とは別の手続きで、墓地の管理者が「分骨証明(埋蔵・収蔵証明)」を出します。
- 千葉市の市営霊園では、墓地使用許可証を持って管理事務所で申請します(1件300円)。墓地使用者でない人が申請するときは、使用者の承諾書が要ります。
- 分骨した遺骨を別のお墓に納めるときは、その証明書を分骨先に出します。
手数料や書式は墓地によって違うので、管理者に確認してください。
話し合いがまとまらないとき
家庭裁判所の手続き
- 誰が祭祀承継者かで争いがある:被相続人の指定がなく、慣習もはっきりせず、相続人の間で決められない場合は、家庭裁判所に祭祀承継者の指定を申し立てる方法があります(民法897条2項)。
- 親族の関係そのものがこじれている:家庭裁判所の「親族関係調整調停」は、親族間の感情的な対立などについて、話し合いで円満な関係の回復をめざす手続きです。申立ての手数料は収入印紙1,200円と郵便切手です。
弁護士に相談すべき場面
次のような場合は、弁護士に相談してください。
- 遺骨の引き渡しを拒まれている
- 費用の負担をめぐって請求し合っている
- 相手に代理人がついた
行政書士は、紛争になっている事案で相手方と交渉することはできません(弁護士法72条)。当事務所では、紛争性が出てきた段階で弁護士をご案内しています。
よくある質問
Q. 兄弟の1人が反対していますが、墓じまいはできますか? A. 改葬許可の要件は、墓地使用者の意思(申請者が使用者でない場合は使用者の承諾書)です。兄弟の同意書は法律上の条件ではありません。ただし、後のトラブルを避けるため、説明を尽くしてから進めることをおすすめします。
Q. 承諾書と同意書は何が違いますか? A. 承諾書は主に、申請者が墓地使用者でないときに役所へ出す「墓地使用者の承諾書」を指します。同意書は、親族の了解を記録するための私的な書面で、役所への提出は通常求められません。
Q. 親族に費用を分担してもらうことはできますか? A. 話し合いで決めることになります。合意できたら、金額と支払い方法を書面に残しておきましょう。争いになった場合は弁護士にご相談ください。
Q. 分骨すると改葬許可は要りませんか? A. 一部を分ける分骨は、改葬許可ではなく分骨証明で手続きするのが一般的です。お墓に残る遺骨を全部移すときは、改葬許可が必要です。
当事務所でできること
櫻井高貴行政書士事務所では、次の書類の作成をお手伝いしています。
- 親族への説明文の作成
- 同意書・承諾書の作成(1通5,500円)
- 改葬許可申請の書類作成(書類作成プラン 22,000円)
- 説明文・寺院へのお知らせ文・日程表までまとめた「まるごと段取りプラン」(132,000円・4柱まで)
親族間の交渉の代理は行いません。料金の詳細は料金表へ。ご相談は無料相談フォームから(初回30分無料)。
出典
- 墓地、埋葬等に関する法律・同施行規則(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000048 / https://laws.e-gov.go.jp/law/323M40000100024
- 大津市「改葬許可 審査基準」(施行規則2条の解説)https://www.city.otsu.lg.jp/material/files/group/228/shinsakijyun_kaisou.pdf
- 横浜市「改葬許可申請」https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/koseki-zei-hoken/todokede/koseki-juminhyo/todokede-touroku/koseki/kaisou.html
- 民法(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 岡山家庭裁判所「遺産分割手続Q&A」https://www.courts.go.jp/okayama/vc-files/okayama/2020/isanbunkatu/isanbunkatusyosiki/03_isanbunkatu.pdf
- 裁判所「親族関係調整調停」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_06/index.html
- 千葉市「改葬、分骨について」https://www.city.chiba.jp/hokenfukushi/iryoeisei/seikatsueisei/reburial.html
- 東京都公園協会「都立霊園 使用の手引」(承継の手続き)https://www.tokyo-park.or.jp/reien/assets/tebiki_mitama.pdf
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